我に返ると同時に、扉に伸ばされた恵衣くんの手首を掴んでいた。目を丸くした恵衣くんが私を見下ろす。

眠りから目覚めたばかりのような頭は意識がハッキリするのに三秒かかり、覚醒すると同時に全てを理解する。

私は今、先見の明を使ったんだ。


「待って、駄目なの! もう下の階まで来てる! 今行けば階段で鉢合わせる……ッ!」

「急に何を────」

「お願い、信じて……!」


ぎゅっと目を瞑り恵衣くんの手首を握る。力を入れているはずなのに情けないくらいにがたがたと震えた。

数秒の沈黙の後、恵衣くんが震える私の手に自分の手を重ねた。ハッと顔を上げると真剣な目が私を射抜いた。


「作戦を変えるぞ」


そんな言葉に目を見開いた。

だってまさかそんなにもあっさり聞き入れてくれるなんて思ってもみなかったから。

私の表情を見て恵衣くんが顔を顰める。


「信じろつったのはお前だろうが。無駄話してる暇はない。さっさと次を考えるぞ」


ああ、どうしよう。泣きそうだ。でも、泣いてる暇なんて私達にはない。

袖で強く目元を擦って顔を上げた。