来光くんが私とノブくんの手を引いて走る。
振り返ればひたひたと不気味な音を立ててこちらへ向かってくる赤黒い姿がある。
来光くんは私とノブくんを視聴覚室へ押し込むと、自分は中へ入らずに外からピシャリと扉を閉めた。
驚いて扉に駆け寄ると「出ないでッ!」と外から叫ぶ。
「僕が被服室の中に引きつけるから、その間にさっきのルートで二人は外に出るんだ! ノブくんを頼んだよ巫寿ちゃんッ!」
被服室の中に引きつける……?
それってつまり────。
理解すると同時に渾身の力で扉を引いた。私がそうする事を分かっていたのか、外から来光くんが扉を抑える。
目尻がカッと熱くなって視界がぼやける。
「来光くん駄目ッ! お願い開けて……ッ!」
必死にそう叫ぶけれど扉はピクリとも動かない。
来光くんは何も言わない。何も言わずに扉が開かないように外から押さえ付けている。
来光くんはこのまま囮になって私たちを逃がすつもりだ。
必死に扉を叩いた。やはりびくともしない。
「ねぇノブくん、巫寿ちゃん。あと嘉正と慶賀と泰紀も」