私達がいる被服室は三階の最奥、下の階へ繋がる階段とは正反対にあった。

先頭を恵衣くんと私、その次にノブくんを支えて来光くんが走る。足音は立てないように、でも出来るだけ早く廊下を駆け抜ける。

三階から二階へ降りる階段に辿り着いた。壁の影に隠れて下の様子を伺う。階段は15段ほど降りて踊り場を挟み折り返すようにまた下りる。見える範囲で異変はない。

恵衣くんが小さく頷き、私達は階段へ飛び出した。


残穢は確かに階下から上へ登ってきているけれど、すぐ近くにいるような量ではない。おそらくまだ一階にいるのだろう。

この調子で走れば無事に二号棟へ移り外へ出られるはず。

宮司や本庁からの応援も間もなく到着する頃合、外にさえ出ればもう大丈夫だ。


油断をしているつもりはなかった。けれどもその一瞬の気の緩みがそれを招いてしまった。


階段へ飛び出す前には一度影に身を潜めて階下の確認をしたはずなのに、私も恵衣くんも階段の途中の踊り場ではそれをしなかった。

安堵感と急く気持ちが無意識に出てしまったのかもしれない。


踊り場を飛び出すと同時に、ぶわりと紫暗の靄が顔中に降りかかった。鉄の臭いと生臭さ、背筋がぞわりとするどす黒い赤。その先で、光を灯さない目と目が合った。

それが何なのか理解したその瞬間、頭よりも先に身体が急ブレーキをかけた。飛び出しそうになった身体を両足が踏ん張って支える。

それでも間に合わずふわりと体が階段から浮いたその時、隣から伸びてきた白い腕が勢いよく私の肩を掴んだ。

勢いよく後ろへ方に引かれて、投げ出されそうになった体は今度は踊り場へと突き飛ばされる。