なるほど、確かに渡り廊下を経由して別の棟に移れば四号棟の一階を経由せずに外に逃げられる。

だったら今すぐにでもここを出るべきだ。時間はない。


「おいお前。その窓から外に突き落とされるか自分で走るか三秒以内に選べ」


そんな脅しすらノブくんには届いていなかった。

痺れを切らした恵衣くんがつかつかと歩み寄ってきて手を伸ばした。本気で窓から放り投げるつもりなんだ、とギョッとして間に入ろうと腰を浮かせる。

けれど私よりも恵衣くんよりも先に、首がふれるほどの鋭い平手が炸裂した。

その衝撃に驚いたのかノブくんがやっと顔を上げた。


「────いい加減にしろッ!」


その胸ぐらを掴んだのは来光くんだった。


「どこまで間違え続けるんだよ! いい加減気付けよ、目を覚ませよ! 確かに君をいじめてた奴らは最低だよ、でもこの状況を作り出した君も同じくらい最悪最低のクソ野郎なんだよッ!」


怒鳴り声をあげる来光くんに、ぶたれた頬に手を当てながら目を丸くする。

馬乗りになってノブくんの胸ぐらを激しく揺すった。


「ノブくんは僕らをいじめていたアイツらと同じレベルまで成り下がるのか!? どこまで自分の価値を下げる気だよッ! そんな奴じゃなかっただろう!?」


顔を真っ赤にしてそう叫ぶ横顔が私には今にも泣き出しそうに見えた。