「俺は、俺は何も、俺は何も悪くない。俺は何も悪くない……! こうなったのは俺のせいじゃない! 全部あいつらが悪いんや!」

「言い訳はいいから今は立って! ここを離れないと危険なんだよ!」


脇に手を差し込み立ち上がらせようとする来光くん。

完全に我を失っていて、さらに自分よりも一回りは体格が大きいノブくんを引っ張りあげるのは難しいようで「巫寿ちゃん手伝って!」と悲鳴をあげる。

お腹のそこにふつふつと湧いていた怒りを深呼吸で落ち着け「分かった」と駆け寄り、反対側の手を引っ張る。

根が生えたようにぴくりともその場から動かない。


「ノブくん! 早く立ってってば!」

「このままだと全員危険なの……っ!」


必死でそう呼びかけるが狂ったように「俺は悪くない」と繰り返すだけで、動く気配はなかった。

その時、「おい……っ!」と恵衣くんが控えめな声で私たちを呼んでパッと顔をあげた。教室の扉に耳を押し当てた恵衣くんが険しい顔で片手を上げる。

すぐに意を汲み取って、来光くんがノブくんの口元を塞いだ。私も身を縮めて息を殺す。


十秒か一分か、感覚が狂うほどの張り詰めた空気が流れて、後ろ手に鍵をかけた恵衣くんが足音を立てずに戻ってくると私達を見た。


「奥の階段から残穢が流れてきているのが見えた。おそらく奴はこの棟にいる。時間がない。今すぐ出るぞ」


もうこの棟に、と息を飲む。


「恵衣くん、もう下の階いるなら階段はもう使えないんじゃ……」

「いや、おそらくアレはまだ一階だ。今なら一つ下の二階におりて渡り廊下で二号棟へ向かって外に逃げられる」