生臭い風が私たちの所まで流れてくる。鉄の臭いがする。これは。

ぞわりと背筋を冷たいものが走って、ヒッと息を飲んだ。声を上げるよりも先に誰かの手が私の口を塞いで柱の陰へ引きずり込む。

壁に背を預けしゃがみこみ、つられるようにすとんと座り込んだ。


「叫ぶな馬鹿、落ち着け」


耳元で恵衣くんの落ち着いた声が聞こえた。

堪らずこくこくと頷けばゆっくり手が離れた。


「思ったよりも強烈だったね……」


青い顔をした来光くんが口元を抑えて天を仰いだ。


「お前の感想なんてどうでもいい。あいつは今隣の棟だ、こっちに来るのも時間の問題だろう。さっさと見付けて外に出るぞ」

「分かってる」


二人してふたりが立ち上がって、慌てて続こうとしたけれど膝が震えて上手く立てない。

血塗れた身体が脳裏を過る。あれは間違いなくほかの妖を食らった跡だ。

身へ危険が迫っている時に感じる恐怖。身体の力が抜けて思うように動かなくなる焦燥感が、一層恐怖心をざらりと煽る。

「待って」二人にそう声をかけようと手を伸ばしたその時、私が声をかけるよりも先に伸ばした手が掴まれてふわりと身体が浮いた。

両足がしっかりと地面を踏んでいる。ハッと顔を上げた。


「しっかりしろ。それでも神職か」


切れ長の目が私を見下ろす。いつもと変わらない憮然とした表情で、声だって素っ気ない。

なのに何故か、冷たくなっていた手に熱がやどる。強ばっていた身体に血が回り始めて膝に力が入った。