一階、二階と隅々まで捜索を続けたけれどノブくんを見つける事は出来なかった。あとは三階の音楽室と視聴覚室、被服室しかない。

廊下は相変わらずしんと静まり返っていて、不気味な空気が漂っている。

来光くんの顔にも不安の色が滲み始めていた。


前後を警戒しながら三階へ続く階段を登っていたその時、パァンッとガラスが弾ける破裂音がして勢いよく振り返った。

階段を駆け上がった恵衣くんと来光くんが中庭側の窓に駆け寄り身を乗り出した。遅れて私も顔を出す。


三号棟の一階だ。廊下の中庭に面した窓が割れている。


「三号棟か」

「まずいな、急ごう」


二人が顔を顰める。


まさか────。


次の瞬間、割れた硝子の隙間からどす黒い何かが見えた。腕だ。なにかの腕だった。目をこらすとわずかな月明かりでそれがてらてらと光っているのがわかった。黒ではない、赤だ、黒に近い赤の液体を被っているだった。

それがゆらりと揺れて身体が見えた。遠いけれどそれが私の背丈の半分ほど、抱えて持ち上げられるくらいの大きさであることが分かった。

やけに手足が細く棒切れのように骨ばっている。反対に腹は破裂しそうなほど膨らんでいてその対比が不気味さを助長している。

赤子のような薄いひとつまみの髪に、落くぼんだ目は悲しみを映し、その表情は憤怒で歪んでいる。剥き出しの黄ばんだ歯から滴り落ちる赤い液体が顎を伝いいっそう身体を赤く染めた。