廊下の隅にまできた。
案の定給食用エレベーターの壁は破られていて、生臭い臭いが鼻をつく。
ごうごうと残穢が溢れ出すそこを覗き込む勇気はなかった。
そこに閉じ込められた妖たちの残穢に染み込んだ悲しみや苦しみが私の中へ流れ込んでくる。きっと怖くて辛くて堪らなかったはずだ。
「最要祓を奏上するぞ」
恵衣くんの言葉に、空いた穴を見つめる。
最要祓は最も強い浄化の効果をもつ大祓詞を簡略化した祝詞だ。大祓詞は詞数が多くかなり奏上が難しい祝詞で、私たちは一年生はまだ教えられていない。
本当に、浄化する事が正しいんだろうか……?
この場を不浄にしている事には間違いない。このままだと結界の外に漏れて多くの人たちに被害が及ぶかもしれない。
でも────。
「いや、復命祝詞だ」
私が口を開くよりも先に来光くんがそう言って、私は身を乗り出した。
「私もそう思う……!」
「うん。だって神職の役目は、人と妖を導き守ることだ」
この残穢は間違いなく不浄だけれど、ただ祓うだけじゃ駄目だ。これはただの残穢じゃない。まだ導くことはできる。
来光くんと目が合った。力強く頷く。
「三人で奏上しよう、復命祝詞を!」