「無理ないよ、巫寿ちゃん。これは、なかなかキツい。僕の御札でも防ぎきれない残穢の量だ」
目尻の涙を両手で拭った来光くんも顔を歪ませてそう言う。
やっぱりそうか、この感覚は残穢が身体に入って来ているんだ。
熱が上がり始めている時のように全身が熱いのにがたがたと震える。
残穢に当てられるのはこれで三度目だけれど、この感覚には一生慣れることは無いだろう。
乱れた呼吸を整えようと長く息を吐いた。
「……ごめん、大丈夫。歩ける」
恵衣くんを見上げてそっと手を解いた。
私の返事に強く頷いた来光くん。廊下の先を見つめ一歩を踏み出した。
近付くにつれ増える残穢に膝が震え息を飲んだ。
黒板を引っ掻くような耳鳴りはやがて具体的な音の形になっていく。
助けて、怖いよ、お母さん、助けて、痛い、苦しい、怖い、怖い、助けて。
悲鳴に近いその叫びは、あの中に閉じ込められた妖たちの叫び、この胸に入り込んでくる恐怖や悲しみは妖たちの心だ。
溢れ出すこの残穢は、蠱毒のものなんかじゃなかった。
ここへ閉じ込められた彼らの、残穢にまで刻み込まれていた苦しみだ。