「酷い有様だね……巫寿ちゃんそこ足元気をつけて」


足元がぬるりと滑る感覚に心臓が跳ねる。緑色の非常灯だけが廊下を照らす暗がりの中、足元に何が広がっているのか皆目見当もつかない。

感覚だけが足の裏に残って唾を飲んだ。


「おい」


暗闇の中から白い手が差し出された。

筋張っていない細い指のその手の主は来光くんではない事は確かだ。


「さっさと歩け。お前のせいで遅れが生じてる」


そんな冷たい言葉と共に白い手は私の二の腕を掴むと勢いよく引っ張る。

慌てて一歩を踏み出せば、少しだけふわりと体が浮いて硬い地面の上に着地する。足裏の嫌な感覚はなくなっていた。


「あ、ありがとう。恵衣くん」


暗闇の中で私を見下ろす切れ長の目に向かってそう伝える。返事は「俺に迷惑をかけるな」といういつも通りのものだった。

"あなた達で、三好正信を救出してください"

禰宜のその言葉に皆一瞬の迷いもなかったけれど、唯一異を唱えたのが来光くんだった。


『ダメだ危険すぎる。応援をここで待とう』


その言葉に少し驚いた。

だってここへ来る前、社を飛び出してノブくんを助けに行こうとしていたのは来光くんだ。


『は? だって来光お前、助けに行きたいんだろ!?』

『行きたいよ、そりゃ行きたいよ! 今すぐ助けに行きたい!』