「中はどうなってる?」
嘉正くんが険しい顔で尋ねた。
「残穢が無限に溢れ出してる。蠱毒が校舎内で暴れ回ってるみたいだ。このままだとまた直ぐに結界が破れるかもしれない」
そう言いながら来光くんはまた袱紗から紙を取り出し筆ペンのキャップを外した。
「来光のさっきの札、もう一枚作れねぇのか? 弱まってるところに貼れば20分なら何とかもつんじゃねぇか?」
「結界はもっても、禰宜たちの体がもたない。祓詞じゃ蠱毒の呪いは一時的に剥がすことは出来てもすぐにまた元に戻るんだ。だから、他の方法でどうにかしないと」
説明する間も惜しいというような顔で勢いよく筆を走らせる。文字が青く光るその光景に、皆同じように目を丸くした。
何かに気づいた恵衣くんがすかさず手を打った。透き通る声で奏上するのは祓詞だ。
祓詞で皮膚の紫暗が剥がれたのと、来光くんの御札が完成したのはほぼ同時だった。
ハッと苦しそうに息を詰まらせ脱力し後ろにひっくり返る来光くん。恵衣くんがすかさず完成した二枚の御札を取り禰宜と権宮司の体に貼り付けた。
体に戻ろうとした紫暗の靄が弾け飛ぶ。
「だがら、浮かした瞬間に厄除けの札を体に貼れば、少しの間は凌げるんじゃないかと思って────ナイスアシスト、恵衣」
「お前のためじゃない。調子に乗るな」
鼻を鳴らして顔を背ける。
大の字に寝転んだまま来光くんがフフッと笑った。