2人とも肩から腹にかけて、ひどい打撲痕のような色が皮膚に拡がっている。


「不覚です、二人とも……蠱毒にやられました」


やっぱりそうか、だとしたらこれは蠱毒の残穢だ。

不浄と対峙して残穢を被った場合、怪我と同じですぐに対処しなければどんどん身体は蝕まれていく。だからこの場合、私たちがしなければならない事は────。

乾いた柏手が三人分揃った。


「高天原《たかまのはら》に、神留《かむづ》まり坐《ま》す神漏岐《かむろぎ》神漏美命《かむろみのみこと》以もちて 祖神伊邪那岐命《すめみおやかむいざなぎのみこと》 筑紫《つくし》の日向《ひむか》の橘の小門《おど》の阿波岐原《あはぎはら》に────」


穢れを祓う祓詞の奏上だ。

毎朝朝拝で何度も唱えた。もう次の言葉を考えずとも口が勝手に動くほど体に馴染んでいる。

肌の変色した紫の部分が剥がれるようにゆっくりと宙に浮きはじめる。


「禊祓《みそぎはら》い給う時に生《あ》れませる祓戸《はらいど》の大神達《おおかみたち》 諸々の禍事《まがこと》罪穢《つみけがれ》を 祓《はら》い給《たま》い清め給えと白《もう》す事ことの由《よし》を 天津神《あまつかみ》 国津神《くにつかみ》 八百万《やおよろず》の 神等共《かみたちとも》に聞《き》こし食《め》せと 恐《かしこ》み恐《かしこ》み白《もう》す」


残穢が完全に体から離れる。

祓える、そう思った次の瞬間、まるで吸い寄せられるように体に張り付いた。


「そんな……!」

「やっぱり……祓詞じゃダメだ。もっと強い祝詞じゃないと蠱毒には効かないんだ」


悔しそうに顔を歪めた来光くんがそう呟く。

もっと強い祝詞、必死に頭を巡らせる。


「あ……私の作ったあの祝詞じゃだめかな!?」


以前、部活動見学で究極祝詞研究会へお邪魔した時に来光くんに手伝ってもらいながら作った祝詞を思い出す。

以前あれで、腕に受けた呪いを祓うことができた。


しかし来光くんは首を振る。