やがて最後の一文字に光が溶け込み、深く息を吐いた来光くんがどさりと後ろに倒れ込む。
「来光くん……!?」
素っ頓狂な声を上げて慌てて肩を支える。
「疲れただけだから大丈夫、ありがとう」
片手を上げて力なく笑った。
以前志らくさんが授力を使った後、ひっくり返って眠っていたのを思い出す。授力を使うと比にならないくらいとても疲れるらしい。
「僕のことより、先にこれ貼ってきて貰える? 亀裂のそばの塀あたりとか。貼るだけで大丈夫だから」
分かった、と札を受け取り急いで塀のそばに向かう。
残穢が激しく結界の外へ流れ出す光景に眉を顰め、直ぐに塀に札を貼った。次の瞬間、流れ出そうとしていた残穢がまるで強い風にでも煽られたこのように弾き返った。
亀裂のそばはあっという間に残穢が晴れる。近付いても弾かれてやがて霧散した。
「すごい……」
思わずそう呟く。
書宿の明については"書いた文字が言葉通りになる力"という程度の知識しかなかった。
でもそうか、そういう事なんだ。
『だから恵衣、お前の知ってる限りで一番効果の強い厄除の祝詞を僕に教えて。まだ恵衣が使えない祝詞でもいいから』
先程の来光くんの言葉を思い出す。
やっと書宿の明がどういうものなのか分かった。
言霊の力じゃ奏上できないような祝詞でもその祝詞の言葉さえ分かれば、書宿の明で効果を発動させることが出来る。
間違いない、これは最強の授力だ。