恵衣くんは目を見開いたまま何も言い返さなかった。

頭突きをされて恐らく脳が揺れて何も出来ないという理由が殆どだと思うけれど。


黙った彼を睨みつけ勢いよく手を離した。恵衣くんがその場にどさりと尻もちをつく。

フンッと鼻を鳴らすと、懐へ手を突っ込むと袱紗と筆ペンを取り出した。


「来光くん、どうするつもりなの……?」


まだ鼻息の荒い来光くんに恐る恐る話しかける。


「僕も残穢を防ぐような結界の張り方は分からないから、結界の破れた部分の内側に厄除けの札を貼る。上手く行けば残穢が破れた部分を避けて、漏れることは防げるはずでしょ」


なるほど、たしかに弾く効果のある厄除けの札なら結界が貼れなくても代わりになる。


「だから恵衣、お前の知ってる限りで一番効果の強い厄除の祝詞を僕に教えて。まだ恵衣が使えない祝詞でもいいから」


恵衣くんは黙ったままだ。俯いていて表情は見えない。そして。


「……一度で書けよ」


そう言って赤くなった額を抑えながら立ち上がると私たちの元へ歩み寄る。


「恵衣こそ噛むなよ」


今度は恵衣くんがフンッと鼻を鳴らした。