塀は越えられたものの体勢を上手く整えられず、その勢いのまま二人して反対側へ転げ落ちた。
背中からドンッと落ちるも幸運なことに草の緩衝材があって何とか大怪我は免れる。
ゲホゲホと咳き込みながら顔を上げた。運動場の真ん中辺りに黒い影が蹲っている。
「恵衣くん……ッ!」
急いで立ち上がり走り出す。
駆け寄れば、青を通り越して白い顔をした恵衣くんが喉の奥を鳴らしながら細い息をして蹲っていた。
来光くんが勢いよく背中を叩き御札を貼り付けた。その瞬間、ゴホッと大きな咳とともに紫暗色の靄が口からぶわりと出てくる。
呼吸の音がやがて正常になって、安堵の息を深く吐いた。そして明らかに冷静さを欠いている恵衣くんに眉根を寄せる。
「こんな残穢の中を何の用意もなしに飛び込むなんて無謀すぎるよ!」
「うる、さいッ!」
肩を支えていた私の手を振り払った恵衣くんが膝に手を着いて立ち上がる。
まだ上手く力が入らないのか膝が震えていた。
「とにかく体内の残穢は追い出して、厄除けの札を張ったから恵衣は大丈夫だ。僕らは先にあっちをどうにかしないと」