「もっと早く走れないのかノロマ共ッ!」

「お前こそ口動かすより足動かしたら!?」


よりによって同じ方向に走り出したのは来光くんと恵衣くんだった。

こんな時に言い争っている場合じゃないと言いたいところだけれど全力疾走しているせいで上手く喋れない。

とにかく今は急いで探し出さないと。


暫く走り続けていると、急にズンと両肩を強く押さえつけられるような圧迫感を感じて膝が震えた。

この感じは間違いない、残穢だ。


「あっ、あそこ!」


来光くんが先を指さす。視線を向けて息を飲んだ。

裏門近くでヤカンの口から水蒸気が吹き出すように残穢が溢れ出し、凄まじい勢いで外へと流れ出している。

恵衣くんが足のスピードを速めた。あっという間に亀裂の元にたどり着くと、塀を乗り越えて敷地内へ入り込む。

こんな残穢の濃い中を何の用意もせずに飛び込むなんて……!


「あんの馬鹿ッ! 巫寿ちゃんこれ!」


来光くんに突然背中を叩かれた。途端、まるで部屋の窓を開けた時のように自分の周りの空気が入れ替わり息苦しかった呼吸が楽になる。

驚いて手をやると指先に紙が当たる。


「"前"よりもパワーアップしてるよ!」


そうか、厄除けの札!


「ありがとう来光くん……!」

「どういたしまして! でも恵衣の背中に貼りそびれたんだ。あのままじゃ気絶されてお荷物になるし急いで追いかけよう!」