でも、注連縄を結ぶことで一時的に結界を張ることは出来たとしても、急拵えのそれでは小さな災厄を遠ざける程度の効果しか無いはず。到底この膨大な残穢を防ぐことは出来ない。

恵衣くんだってそんな事は分かっているはずなのに、あんなふうに飛び出していこうとするなんてらしくない。


「行くべきじゃない! 俺らに出来ることは、社に状況を伝えて本町に応援要請を出すくらいだ!」

「じゃあお前がそうしろ! クソッ邪魔ばっかりしやがって……ッ! 俺はお前らとは違う!」


今にも掴みかかりそうな二人に「落ち着いて!」と間に入る。

恵衣くんが変だ。何で今日はこんなに感情的になっているんだろう。まるで何かにとても焦っているみたいに。


「おいお前ら、喧嘩してる場合じゃねぇみたいだぞ……ッ!」


そんな泰紀くんの声に二人はハッと手を止めた。振り向き、指さす先を見上げる。校舎が見えないくらいに立ち込めて結界の中を蠢いていた残穢が薄くなっている。

薄くなっているなら状況は良くなっているんじゃ────いいや、これは違う。


「残穢が漏れてる……ッ!」


みんなが目を見開いた。


「二手に分かれて学校の塀に沿って走って結界を確認しよう!」

「わ、分かった!」


私達は二手に分かれて走り出した。