「こ、これ……大丈夫なのかよ」

「どこをどう見たら大丈夫に見えんだよ……」


青い顔をした慶賀くんと泰紀くんがそう零す。自分たちの手には追えない事が目の前で起きているのは明らかだった。

禰宜たちは……この中に。


「ね、ねぇ……どうする? ここで待っとく?」


来光くんが振り返った。私達はお互いに顔を見合せて俯いたその時、ビリビリッと布が裂けるような音がした。

え?と目を瞬かせて振り返ると、恵衣くんが手ぬぐいの端を口にくわえて勢いよく割いている所だった。


「え、恵衣くん……? 何してるの?」


ちらりと私を見た恵衣くんは黙々と布を割き続け、やがて細かくなったそれをひとまとめにすると左巻きにぐるぐると編み上げていく。

ねじり鉢巻きのようになったそれを手首に結び付けた所で何かに気が付いた嘉正くんが「ハッ」と息を飲み恵衣くんの二の腕を掴んだ。


「やめろ恵衣、そんな結界じゃ何の役にも立たない!」

「うるさい黙れ、離せ」


結界? 恵衣くんはあの手ぬぐいで結界を作っていたの?

嘉正くんを振りほどこうとして上げた手首を見た。ロープのようにキツく拗られた細いそれ。やがて見覚えのある形に「あっ」と声を上げる。

あれは注連縄(しめなわ)だ。

社の中だと鳥居や拝殿にかけられることが多い。私達の住む現世(うつしよ)と神の住む神域常世(とこよ)を区切るために設けられるもので、結界と同様悪しきを通さず悪しきを封じる力がある。

恵衣くんは自分に注連縄を結ぶことで、自分の周りに結界を張って残穢を通さないようにしたんだ。