「────なんっ……だこれ」
校門の前に立って言葉を失った私達は、呆然とそれを見上げた。
例えるならばビニール袋に煙を閉じ込めたような光景だった。
学校全体がドーム状の薄くて透明な膜で覆われている。恐らく禰宜か権宮司が張った結界だろう。その結界の中に紫黒の靄がひっくり返したスノードームのように広がっている。奥に建っているはずの校舎ですらその靄のせいで目視できなかった。
これは間違いなく残穢だ。
「この残穢、やっぱり蠱毒だったんだよ! 早く禰宜達に知らせなきゃ……ッ!」
駆け出そうとした来光くんの腕を嘉正くんが咄嗟に掴んだ。
「落ち着いて来光。蠱毒を外に出さないために結界を張ったんだ。禰宜達はちゃんと気付いて対策を取ってる」
確かに夕方の作戦会議では修祓の前に結界を張るとは言っていなかった。結界を維持するために人員を一人必ず確保する必要があるし、そもそも普通の呪いなら暴れて被害が拡大することもないからだ。
一瞬靄がゆらりと晴れて生徒玄関が見えた。加湿器の口から吹き出す水蒸気のように残穢が溢れ出している。
息を飲んだ。
一学期に見た、空亡の残穢が封印されたあの場所と同じだ。