静けさに包まれた夜の街を三台の自転車が突き進む。
吹き付ける風は頬を刺し、ギュッと身を縮めて恵衣くんの背中に隠れた。白い息が昇ってつられるように夜空を見上げる。灰色の分厚い雲に覆われた月が鈍く光っている。
そういえば禄輪さんと初めて出会った日、私がこの世界へ踏み込むきっかけになったあの日もこんな空だった。
「巫寿ちゃん、大丈夫?」
隣を走る自転車の荷台から来光くんが不安げな顔でそう言った。
「本当に恵衣の後ろが嫌だったら言ってね。僕が────か、代わるから」
妙な間があって思わずくすくすと笑う。
本当はものすごく嫌なのだろう。
「大丈夫だよ。今のところ気まずい以外は何ともないから」
「そっか。良かった」
「別にいいけど、二人ともその会話恵衣にも聞こえてるからね」
嘉正くんが呆れた声でそう言う。
何も言わないけれどメラメラと怒りのオーラが燃えたぎっている恵衣くんの背中に私達は口を閉ざした。
「もうすぐ着くぞー!」
先頭を走っていた泰紀くんがそう叫ぶ。
皆は強くペダルを踏みしめた。