三学期の初日は始業祭と簡単なホームルームで解散になった。
早速実習の期間でどこに遊びに行くのか話し始めた皆を横目に、教卓の上に並べられた冬休みの宿題を整える。
薫先生から各科目の先生の研究室へ運ぶよう頼まれたのだ。
全員分揃っているか確認していると「おい」とぶっきらぼうな物言いで話しかけられる。
振り返ると同時に一冊足りていなかった「憑物呪法」のノートが差し出された。
「恵衣くん」
涼し気な目に少し硬質な黒髪の仏頂面の男の子は、クラスメイトの京極恵衣くんだ。
「……名前書くの忘れてたから」
ノートをぐいと差し出す。
書道のお手本のような綺麗な時で名前が書かれている。
そう言えば恵衣くんからも達筆な字で書かれた年賀状が届いていたなと思い出す。
「そう言えば年賀状ありがとう。届いてたよ」
「……お前頭大丈夫か?」
「え?」
いくつか考えていた返答のどれにも当てはまらず、間抜けな声が出る。
「住所書いて出してんだから届くに決まってるだろ」
「あ、え? あの……うん、そうなんだけど」
ごもっともな言い分だけれど、それにしても言い方が酷い。
一、二学期と過ごしてきて恵衣くんのことが何となく分かってきた。恵衣くんは口が悪い、言葉選びはもっと悪い。典型的な口下手で損をするタイプの人だ。
誤解を受けるような言い方しか出来ないようで、周りに反感を買うこともしばしばある。
本人はそれに自覚がないので尚更厄介だ。