それは、と嘉正くんが眉根を寄せる。
数分前の会話を思い出した。
『もしもノブくんが使った呪いが蠱毒だったとしたら、ノブくんが危ない』
広げた本を顔を埋めるようにして読んでいた来光くんがそう言った。
『危ないってどういう事だよ? 確かに素人が途中でやめようとしたら呪いが跳ね返ってくるかもしれねぇけど、解呪するのは神職だぞ?』
そんな初歩的なミスするか?そう尋ねた泰紀くんに来光くんは険しい顔で首を振る。
『ここ見て。これに書いてある通りだと、何通りかあるやり方のほとんどが最後の一匹になった虫を神同様にして祀ることで願い……呪いを遂行して貰うんだって』
『それの何が危険なんだ?』
『祀るってことは自分の位置を下に位置付けるってことだよ。つまり正しいやり方で解呪しなければ、呪者本人も狙われる』
みんながその意味に気付いて息を飲む。
禰宜たちよりも先にノブくんが慌てて呪いを終わらせようとしたら、ノブくんも蠱毒の対象になってしまうということだ。
来光くんは勢いよく立ち上がると、本殿から飛び出した。
禰宜たちは私たちに手に負えない相手だから待機を命じた。来光くんならちゃんと全部分かっている。わかっている上で飛び出してしまうほど、やっぱりまだノブくんのことを大切な存在だと思っているんだ。