「恵衣ってホンット性格悪いね」


そんな声がドアの方から聞こえて目を向ける。書物を小脇に抱えた来光くんが険しい顔で立っていた。

メガネのブリッジを押し上げた来光くんが息を吐いた。


「馬鹿にされてるよ、巫寿ちゃん」


どうやら来光くんにはさっきの言葉の意味が分かったらしい。馬鹿にされていると感じた私の勘は当たっていたようだ。

お互いに睨み合う二人に居間には険悪な雰囲気が漂い始める。冷や冷やしながら話題を変えようと身を乗り出す。


「ら、来光くんはどうしたの? まだ集合まで二時間くらいあるよ」


ああ、とひとつ頷いた来光くんが小脇に抱えていた本を私に見せた。


「ちょっと今回の件で気になることがあって、禰宜から民間呪術に関する本を借りたんだ」

「来光くんも?」

「"も"ってことは巫寿ちゃんも?」

「あ、私じゃなくて……」


控えめにそう言えば、訝しげな顔をした来光くんが恵衣くんを睨む。コタツの上に広げられていた本を見つけて「アッ!」と指を指した。


「それ僕が借りようと思ってたやつ! 雑談するなら早く返しなよ!」

「お前こそ抱えてるだけなら俺に渡せ」


どうやらお互いに借りたかった本を同時に借りていたらしい。

二人して眉をつり上げる。