代わりに恵衣くんの手元を覗き込んだ。
「それ教科書じゃないよね。何の本?」
私の問いかけに「そろそろ黙ってくれないか」とでも言いたげな表情で息を吐いた恵衣くんは渋々それを滑らせて寄越す。面倒臭いという気持ちがもろに顔に出てはいるけれど、教えてくれる気ではいるらしい。
礼を言ってその本を覗き込んだ。右隅に書かれた章のタイトルは「民間呪術とその媒介」、どうやら呪いについての本を呼んでいたらしい。
「民間呪術?」
「能力者ではない一般人の間で行われている呪いについてだ」
「一般人の間で……?」
恵衣くんは「ああ」と一つ頷く。
「今回の一連の事件……呪者の三好正信が何の呪いを使用したのかまだ突き止めれていないだろ」
そう言って私から本を取るとパラパラとページを捲る。
「でもこれから神職さま達がそれを突き止めてくれるんだよね?」
私のそんな質問に呆れた表情を浮かべた恵衣くんが私の顔を見た。いつもの「お前、馬鹿なのか?」か「お前頭大丈夫か?」が出てきそうな顔だ。
「お前、夏目漱石の『こころ』読んだことないだろ」
「え?」
はぁ、とわざとらしくため息を吐いた恵衣くん。おそらくすごく遠回しに馬鹿にされているんだろうなというのだけは分かった。
唇を尖らせたその時。