白衣と白袴に着替えて台所へ向かうと、居間の灯りが点いているのに気が付いた。

向かう方向を変えてそっと覗くと、コタツで本を開く恵衣くんがいた。


「恵衣くん?」


声をかけると少し驚いたのかぴくりと肩を震わせて顔を上げる。


「……お前か」

「あ、ごめんね。びっくりさせた?」

「別に」


視線を逸らした恵衣くんはまた本に向き合う。

どうしよう。このまま立ち去るのも気まずいけど、黙ってコタツに入るのも気まずい。

必死に次をどうするか頭の中で考えていると恵衣くんが机に向かったまま「入れば」と淡々と言う。


許可が降りたことにホッと息を吐き「ありがとう」とお礼を言うと「相変わらず変な奴だな」と無礼千万な言葉が返ってきて苦笑いを浮かべた。


「恵衣くんは仮眠しなかったの?」

「俺はお前らと違って普段から夜に両親の手伝いをしているから慣れてる」


恵衣くんのご両親は本庁の役員だったはずだ。

部活には入っていないようで、学校が終わるなりいつもすぐに本庁へ向かっている姿をよく見る。二学期に行われた本庁主催の観月祭では、夜遅くまで事前準備を手伝っていた。


両親の手伝いを進んでしているのは確かに偉いと思うし尊敬するけど、それにしても言い方……。

注意したところで「正論を言って何が悪い」と睨まれるので指摘するのは諦める。