思わず身を乗り出す。


「ら、来光くん! 話したい事あるんじゃないの!」

「え……」

「だって、そうじゃなきゃ昔の友達のことずっと気にかけてたりしないよ」


来光くんは少し戸惑うように私を見つめる。そして視線を彷徨わせたあと、「うん」と力強く頷いた。

「あっ、なんだよ人の顔みて逃げるなよ!」と慶賀くんが声を上げる。どうやら逃げ出そうとしているらしい。

来光くんはぐっと拳を握りしめると走り出した。

私たちが駆けつけるとノブくんは階段の踊り場で取り押さえられていた。


「離せや!」とドタバタ暴れる背中に慶賀くんが飛び乗る。ぐぇッと苦しそうな声を上げて暴れるのを諦めるようにがっくり脱力する。

「諦めの悪いヤツめ」と鼻を鳴らして吐き捨てた慶賀くんの頭を「やり過ぎだ馬鹿」と嘉正くんが叩いた。


床の上に伸びるノブくんの前に膝を着いた来光くん。


「ノブくん……」


床に顔を伏せるノブくんの肩がびくりと震えた。


「立てる……?」


ゆっくりと顔を上げたノブくんはひどく顔を顰めると差し出された手を勢いよく跳ね除けた。

パンッ、と乾いた音が廊下に響く。

走り出そうと勢いよく立ち上がったノブくんは自分の足に躓いて、ビタンッと痛そうな音を立ててまた廊下に倒れる。

階段を降りてくる学生たちが何事かとチラチラこちらを伺っている。


「ここじゃなんだし、場所移す?」


嘉正くんの提案に返事は無い。けれど黙って立ち上がると下足場に向かって歩き出した。