「なんだよ恵衣! だって神職はネクタイなんてしねぇだろ!」

「どんな事にも冷静かつ完璧に対応するのが神職に求められる資質だ。出来ないことをやろうとせず人に任せるのはただの堕落者だ」

「やった事ねぇんだから出来ねぇのは当たり前だろ! じゃあお前が結べよ!」

「はァ? なんで俺が!」

「じゃあ巫寿に頼むし〜」


言い合う二人にあたふた顔を見る。


「あの……ネクタイって初めて結ぶ時は時間かかるし今日は私が」

「うるさい、黙ってろ」


そんな物言いに私もカチンときた。


「そんな言い方しなくても!」


思わずそう声を張ったその時、「ええ加減にしぃや!」と襟首をいきなり掴まれた。

ビックリして顔を上げると、呆れた顔の千江さんが私たちを見下ろしている。どうやら言い争う声を聞いて様子を見に来たらしい。


「ネクタイひとつで何を言い争っとんの。昼休みしか許可されていないんやろ? さっさと用意して行き」


肩を竦めた皆が「はーい」と小さく返事をする。


「巫寿ちゃんも三馬鹿と同じテンションで言い争っとったらあかんよ。恵衣くんもほんまその物言いどうにか出来んかね」

「僕を一緒にしないでくれますか!?」


来光くんの嘆きを聞き流した千江さんは私と恵衣くんの頭に軽く手刀を落とす。


「恵衣くんは慶賀の、巫寿ちゃんは泰紀のを結んだり。ほんでさっさと出発! 今度は禰宜が角生やして怒りに来るで!」