想像してゾッとしたのか慶賀くんは顔を青くして黙り込んだ。
でも"瞬間移動する御札"なんてものも、理屈ではできちゃうんだ。あらためて授力は奥が深いんだなぁと実感する。
「僕の書宿の明の師匠に教わったんだけどさ、授力って自分のために使うよりも人のために使うことの方が多いんだって。書宿の明は御守や御札の作成に使うし、鼓舞の明は人のために舞うでしょ? どの力も全然違うように思えて、根っこの部分は意外と同じなんだって」
"人のために使う"
来光くんの言葉がすっと胸に染み込んだ。
確かに私の授力は自分のために使う事はできない。人のために舞うことで効果が発揮される。
思い返してみれば、練習中は誰かのためだとかそういう事は考えずに、授力を使えるようになりたいという気持ちが先走っていた気がする。
人のため……。
そうか、人のため。誰かのため。
明日の練習は、それを意識して取り組んでみよう。
「……ふたりともありがとう。足りないものが分かってきた気がする」
「どういたしまして。マスターしたら一番に見せてよ」
そう笑った来光くんに「もちろんだよ」と大きく頷いた。
「にしてもアレだな! リズムがないとちょっと滑らかなロボットダンスみたいになるんだな!」
アハハッ、と笑った慶賀くんに固まる。沸騰直前のヤカンのようにぶわりと顔が熱くなった。
「笑わないって言ったじゃん……!」
そう抗議の声を上げると「あ、ヤベッ」と慶賀くんが肩を縮める。
そんなふうに騒いでいると、いきなり後から手で頭を挟まれてグイッと机のノートに向けられた。隣の二人の同じように、なんなら私よりも若干手荒に机に向きあうよう押さえつけられる。
「……神職は死ぬまで研鑽」
禰宜の低い声が背中から聞こえて、私達は青い顔で何度もこくこくと頷く。急いで姿勢を正すとペンを握りしめノートにかじりついた。