「いやぁ、巫寿ちゃんホンマついてないな。私に教えを乞うのが間違いやわ。これ以上教えれることなんてなさそうやもん」


お手上げですとばかりに力なく首を振った志らくさん。「そんな……!」と藁にもすがる思いで志らくさんを見つめる。


「嫌やわ、そんな捨てられた子犬みたいな顔せんといてよ。別に見捨てるなんて言うとらんやん」

「でもそんなニュアンスでした」

「まぁまぁ。とにかく"私から"はもう教えれることは無いってだけ」


そう言った志らくさんは傍に置いていた自分のスマホを手に取った。軽く画面を叩いたあと「ほいこれ」とスマホをよこす。

画面をのぞき込むと見覚えのある女性が巫女装束で舞う姿が映っていた。


「これって……」

「そ! 巫寿ちゃんのお母さんの舞の映像。しかも、鼓舞の明を使ってる所を収めた超貴重映像や」


画面に移る女性、艶やかな黒髪に優しげな相貌のその人は家族写真で見るよりも少し若いお母さんの姿だった。


「あれ、でも鼓舞の明って動画に撮ってもいいんですか? 大勢で見るのもあまりよくないんですよね?」

「ええんちゃう? 諸法度には特に挙げられてないし。まぁの当時はお母さんにバレてしこたま怒られたけどな」


けけけ、と笑った志らくさんは再生ボタンを叩いた。

恐らく家庭用のハンディカメラで撮影された映像をスマホで録画し直したのだろう。画像が荒く手ぶれしている。

それでもお母さんの舞は息を飲むほどに美しかった。