「────だから、嫌だった。慶賀達の顔をみるのが怖かったんだ。こんな僕を、どう思うのか不安だったから」


長い昔話を終えた来光くんは項垂れるように目線を膝に落とした。

両親が不仲だった事、言霊の力の存在を知らなくて苦労してきた事。何となくは聞いていたけれど、あまりにもその昔話は壮絶で、かける言葉を失った。

いつも笑顔でクラスではツッコミ担当で、慶賀くん達の面倒事に巻き込まれては一緒に罰則を受けて。呆れてため息をついたり「いい加減にしろ!」と怒鳴ったり。けれど来光くんはいつも楽しそうで。

その笑顔の奥にこんなにも苦しい思いを抱いていたなんて思ってもみなかった。


「長々とごめんね。そんな訳で引きこもってましたー……なんて」


空気を軽くしようと明るい口調で来光くんがそう言う。

みんなは俯いて口を閉ざしたままだ。重い沈黙が流れる。壁にかけられた時計の秒針が進む音だけが響いた。

何か言わないと。何か言葉を。でも、何を言えばいい? 私たちに出来ることは何?


ぎゅっと手のひらを握りしめたその時、



「────フゴッ」



突然変な音がして、俯いていたみんながパッと顔を上げた。