紫色の袴を履いた男の人、神々廻(ししべ)(くゆる)先生は来年度から僕が通うことになる神役修詞中等学校の先生をしているらしい。


「俺の家なんだけど好きに使っていいよ。住所はここに移したから、長期休暇はこっちに帰ってきな」


そう言って連れてこられたのは都心から程遠い、とある山奥にある大きな豪邸だった。薫先生は名家のお坊ちゃまらしいのだけれど、訳あって本家とは別の家で暮らしているらしい。

身一つで家を出てきた僕に、薫先生は寝るところと住むところを与えてくれた。

中学校が始まるまでの間は、毎日とは行かないけれど僕が持つ力についてや学校のこと、この界隈のことを丁寧に教えてくれた。

僕には言霊の力という能力があって、これから通う中等学校は僕と似たような力を持つ子供が力の使い方を学び神職を目指すための教育機関らしい。

そのついでとばかりに「興味は無いと思うけど小耳に挟んでて」と教えられた話によると、入院していたクラスメイト達は少しずつだが着実に回復しており、行方不明だった三人は無事に発見されたらしい。消えていた間の記憶はなく、皆が「神隠し」だと騒いだのだとか。

職員室で倒れた担任も少し前から復帰しているようだ。過労と心労によるストレスが原因だと医者に言われたらしい。


興味は無い、ただそれを聞いて胸にのしかかっていた重りがひとつ無くなった気がした。

薫先生は良く周りを見ている人だと思った。