日記は全部消しゴムで消してから破り捨てた。他のページも全部破った、ノートもプリントも教科書の書き込みも全部破り捨てた。
塾の時間になってお母さんが部屋へ僕を呼びに来たけれど、ドアの内鍵を閉めて返事はしなかった。
お父さんが帰ってきて「いい加減にしろ!」という怒鳴り声が聞こえたけれど、枕に顔を埋めて布団に潜り込んだ。
朝が来て、また二人が戸を叩いた。今度は「学校で何かあった?」「辛いことでもあったのか?」なんて優しい声をかけてくる。
おかしいね。僕が何度上履きを無くそうと、煩わしそうに新しいものを用意するだけだったくせに。
今になって、なんでそんな風に態度を変えるんだよ。
ずっと助けて欲しかった。気付いて欲しかった。ねぇ助けてよ、助けてよ。僕おかしいんだ。人を殺せる力があるかもしれないんだ。怖いよ苦しいよ。僕はどうしたらいいの。
もう嫌だ。全部全部、嫌だ。
朝が来て、夜が来て。両親は何度もドアを叩いては時に優しく時に激怒しながら僕に話しかけた。
ドアは開けなかった。
もう自分でも何が何だか分からなかった。
「あの子、おかしいのよッ! 昔からそうだったわ! 変なものが見えるだなんて言って人の気を引こうとして、今だってきっとそうなのよ!」
「怒鳴るのはやめろ、頭が痛くなる」
「じゃあどうしろって言うの!? あなたも少しは協力してよ! 私だって働いてるんだから!」
「子育てはお前の仕事だろ!? 家事も育児もちゃんと両立させる事を条件に仕事の復帰を許したんだぞッ!」