「……死ねって文字を書いただけで人を殺せるって、本気で思ってるの?」


そう発した僕の声は自分でも驚くほど冷たい。



「じゃ、じゃあそんな事出来やんって証拠見せろよ! 死ねって書いても誰も死なんことを俺らに証明しろよ!」


泣きべそを書きながらそう叫んだクラスメイトに、僕はランドセルに仕舞っていた自由帳と筆箱を取り出した。

鉛筆のキャップを外してノートをさらさらとめくる。


「絶対に俺らの名前は書くなッ!」

「じゃあ……誰の名前を書いて証明すればいいの?」

「誰でもいいから、でも俺らの名前は書くな!」


教室を見回した。

教卓が目に入ったので担任の名前を書いた。そして一瞬躊躇ったけれど続けて「死ね」と書く。


だってそんなわけが無い。あるはずがない。僕は普通の人間だ。死ねと書くだけで人を殺せる力なんてこの世にはない。ありえないんだから。

書いたノートを見せた。


二人は顔を見合わせるとドタバタと教室を飛び出していく。

静かになった教室に息を吐き自由帳をしまうと、ランドセルを背負い教室を出た。



下足場に向かいながら、もう何もかもが馬鹿らしく思えてきた。

ありえない噂話を信じるクラスメイトも、あんな卑怯者に怯えていた自分自身にも、ずっと学校へ来ないノブくんにも。


多分明日からはきっと、朝起きても「学校へ行きたくない」だなんて思わないだろう。この場所にもクラスメイトにも、もう何も感じない。