聞いた? 入院してる三人と行方不明の三人、松山くんのノートに名前が書いてあったんだって。聞いた聞いた、気味悪いよね。死ねとか消えろとか書いてたんだって。えー、じゃあ名前を書いただけで人を殺せるの?こわーい、そんなのまるで────"死神"みたい。

子供の発想というのは単純で馬鹿げている。どんな噂話でも五人が話せば真実になるし、どんなに嘘くさい話でも十人が口にすれば誠になる。


いじめはピタリとなくなった。そもそも主立って僕をいじめていたヤツらが入院したり行方不明になった訳だし、その他のクラスメイトは周りで我関せずという態度をとるか、ヒソヒソと悪口を囁く程度だった。

消えろと書いた三人のうちの一人は急に学校へこなくなった。聞いた話では一家で夜逃げをしたらしい。他のふたりはなにかに怯えるように一日中口を噤んでいる。

代わりに聞こえてきたのは僕を『死神』と呼ぶ声だった。

僕は死神なんかじゃない。そんなおかしな力を持ってるわけが無い。僕は普通だ、普通の人だ。死神なんかじゃない。

何度も心の中でそう唱えた。



二学期の学校行事は次々と自粛になった。生徒が三人も行方不明になっているんだからそうなるのも仕方がないだろう。

虐められなくなった僕は、時折背中に視線を感じるけれど静かな学校生活を送っている。

校庭の木々が色を変え始めた10月、ノブくんはまだ学校に来ていない。