「お前、調子乗ってんとちゃうぞ……ッ!」


拳を振り上げた。咄嗟に身を縮めて両腕で頭を守る。その時。


「おいお前ら! 廊下走るなよ!」


廊下を歩いてくる担任の声が聞こえてきた。

ハッと我に返ってすぐに僕の上から飛び降りたそいつは、バタバタと教室から出て行った。

急いで日記を拾い上げて胸の前で抱きしめた。細く息を吐けば身体中がカタカタと震え始める。


どうしよう見られた。言いふらされたら次は何をされるか分からない。

殴られる? ものをとられる?

だってあんなに顔を真っ赤にして怒ってたんだ。

そんなくらいじゃ済まないかもしれない。


震える手を伸ばして机を元に戻した。散らばった教科書を集めて机の中に仕舞う。


『ほい、来光。あんなとこまで飛んでってたわ』


ふとそんな昔の記憶を思い出して、いっそう惨めな気持ちになった。

あの日、ノブくんが僕を殴った理由は何となく分かる。僕もノブくんに出会う前なら、きっとそうしただろうと思ったからだ。

ノブくんはきっと怖かったんだ。虐められるつらさを知って、一度解放されたのにまたあんな悪夢が始まることが怖かったんだ。


けれど今謝られたとしても、許すことは出来ないと思う。

それくらい僕は傷付いた。