「まーた黙りよった!」
「口ないんかお前?」
誰かが僕のランドセルをひっくり返した。
筆箱がきちんと閉まっていなかったのか、鉛筆がバラバラと飛び出す。それを見た皆はここぞとばかりに踏んずけた。木が折れる乾いた音が響く。
まだ使い始めて一週間も経ってないのに。
眉根を寄せて俯いた。
鉛筆を投げつけられて頬をかすった。ピリッとした痛みが走って顔を顰めて手を当てる。頬がぬるりとして、驚いて手を離すと手のひらに少しだけ血がついていた。
途端に目の奥がカッと熱くなった。
駄目だ。泣くな、泣くな泣くな泣くな。今ここで泣いたらアイツらが喜ぶだけだ。
全然平気だ。こんなの何でも無い。沢山血が出ている訳でもない。家に着く頃にはすっかり乾いているだろうし一晩眠ればあっという間に傷口は消える。
痛いのは今だけだ。平気だ。大丈夫我慢できる。泣いて赤くなった目を見たら、ノブくんがまた悲しい顔をする。
今日はこの後公園で遊ぶ約束をしたんだから。
力一杯手のひらを握りしめた。爪が皮膚にくい込んで、そっちの方が痛かくて気が紛れた。
「まじで気持ち悪いコイツ、何でなんも言わんの? アイツはピーピー泣きよったのに、お前ほんまおもんないわ」
アイツ……?
一体何の話だ。
「そういやアイツの事連れてこい言うたのに、何してんねや?」
「もう来るやろ。さっき廊下で見たし」
彼らのそんなやり取りに僅かに顔を上げたその時。
「やめて! 放して!」必死に叫ぶそんな声と共に、勢いよく教室の後ろ扉が開いた。
開くと同時に誰かが教室の中へ突き飛ばされたのがわかった。倒れ込むように中へ入ってきたその人物に目を見開いた。
「ノブくん……ッ!」