「来光そこおる!?」
「いるよ」
「ほんまにおる!?」
「いるってば」
「信用ならんからドア叩き続けて!」
「その方が怖くない?」
いいから!と言われて仕方なくドンドンドンッ!と叩き続ける。
何となく週末の夕方にやっている大喜利番組のテーマ曲を刻めば「おっそれええな!」とノブくんが喜んだので、その調子でリズムを刻む。ノブくんが個室から合いの手を入れてきたので堪えきれずにプハッと吹き出した。
帰りはお互いに目が暗闇に慣れたのか、どちらが前かを押し付け合うことなく懐中電灯はノブくんが持って横並びで帰った。
「いや〜、一人でも全然平気なんやけどな。夜の散歩も楽しいやろ思って誘ったんや」
「もー、行きと言ってること違うし」
ちっちゃいことは気にすんなー、と昔流行ったネタを披露したノブくん。両親がお笑い好きで色んな一発芸ネタを知っている。それは僕らが二歳くらいの頃に流行ったものたらしい。
テントの前についた。ふわぁと欠伸をこぼす。
「早く寝ようー……もう絶対起こさないでね」
「おー、大丈夫大丈夫。出すもん出し切ったし、これなら朝までぐっすり────」
テントの入口を持ち上げたノブくんが固まった。名前を呼ぶも返事がない。不思議に思いながら「先はいるよ」とテントをめくる。
テントは二人用だ。僕とノブくんが二人で使っている。だから二人とも外に出ている今、テントをめくっても目が合うはずはない────のに、テントの中の暗闇の奥と目が合った。
ヒュッと喉の奥が鳴った。
手が震えて懐中電灯のストラップの金具が本体に当たりかちかちと音を立てる。ガタガタと小刻みに揺れる光を、テントの中へ向けた。