必死にそう説得すれば、お母さんはまた深く息を吐いた。いつもならもうそこで心が折れてしまうのだけれど、今日ばかりは食い下がる。


「お願い……! ちゃんと勉強するから!」


お母さんは僕の手からプリントを取った。しばらくの沈黙、唾を飲み込んで顔色を伺う。

そして────。


「もしこれに参加して夏休み明けの模試で成績が下がるようなことになれば、受験が終わるまで外出禁止よ」


エプロンのポケットからボールペンを取り出して、参加に丸を付け保護者欄にサインを書いてくれたお母さんはプリントを僕に差し出した。


「あ、ありがとう……!」

「早く勉強なさい」

「はい……っ!」


いつもならウンザリするその台詞も、今日ばかりは素直に頷いた。

部屋に戻る途中、ダイニングの隅に置いてある電話の子機を小脇に隠して部屋へかけ戻った。

ベッドに飛び乗るとすぐに子機の番号を押した。コール音が五回ほど鳴って、「はい三好です」と高い声の人が出る。


「あ……えっと、こっ、こんばんは! ノブくんのお母さんですか? 僕、松山来光です。ノブくんに代わって貰えますか?」


沈黙が流れる。

あれ? もしかして電話かけ間違えた?と少し焦り始めたところで電話口から「ヒヒヒッ」と悪戯に笑う声が聞こえた。