「────あの、お母さん」

「何? 塾の宿題終わったの?」

「うん……終わった」


夏休みが直前に迫ったある日の夕食後。

リビングにいても会話が弾むことはないのでいつもならすぐに自室へ引きこもるところを、お母さんに話しかけた。

食器を洗っていたお母さんはちらりとこちらを一瞥した。


「これ……学校で配られたやつなんだけど」


そう言ってプリントを差し出すと、お母さんはため息をついて手を洗うとそれを受け取る。


「サマーキャンプ?」

「あの……夏休みにキャンプするんだって。自分でご飯作ったりテント立てたり、グループで化学の研究発表するんだ。誰でも参加していいんだって。これ、行ってもいい……?」

「三泊四日って書いてるじゃない。そんな暇ないでしょう? 塾はどうするのよ。中学受験まであと半年もないのよ」


これで話は終わり、とでも言いたげな顔でプリントを突き返してきたお母さん。

いつもはそこで引き下がってしまうけれど、ぐっと拳を握って顔を上げた。


「このキャンプは塾が夏休みの期間だよ! それにキャンプの間は自習の時間もあるし、自由時間だってちゃんと勉強する!」

「そんなふざけた場所で集中出来るわけないでしょう」

「出来るよ! それにキャンプを手伝いに来るボランティアのお兄さん達は慶大の学生なんだって! 勉強だって教えて貰える!」