顔を上げるとキュッと眉間に皺を寄せて目を逸らし泣きそうな顔をしたノブくんがいた。

黙って受け取る。沈黙が流れる。

下敷きをランドセルにしまって、最後にランドセルの埃を払うとにやりと笑って肩を竦めた。


「ねぇノブくん、昨日のイナズマイレブン見た?」


強ばった表情だったのが、ぱっと明るくなる。


「見た! 帰りに公園でサッカーやろや!」

「ランドセル置いたら集合ね!」


ひひひ、と笑いあって教室を飛び出す。二人で廊下を駆け下りて靴箱で運動靴を引っ掛けた。

前とは違う。だって今の僕には友達がいる。落とされた教科書を拾ってくれて、隠された上履きを一緒に探してくれる友達がいる。

だから全然平気なんだ。


ボロボロになった上履きを探すのだって宝探しみたいだ。


「来光見つけたー! 木の上にあるわ!」

「そんなとこにあったのか!」

「あっ、カラスが巣にしようとしてるで!」

「あははっ何それ!」


教科書に落書きされても、二人でそれを眺めてどれがいちばん下手くそな絵か笑って話せる。


「これなんや? 猫か?」

「え、ブタじゃない?」

「下手くそすぎやろッ!」


全然痛くない。少しも怖くない。ちっとも辛くない。

ノブくんがいてくれるから、本当にへっちゃらなんだ。


日記にはノブくんの名前ばっかり並んだ。今思い返せばちょっと引くくらいノブくんの名前ばかり書いていた。

それくらい、大事な友達だった。