少し困ったように視線を逸らした後、彼は頬をかいた。


「友達になりたいから」


意味が理解できなくて目を瞬かせる。


「もー、何度も言わせんなや。恥ずかしいやろ!」


頬を赤くした三好くんは唇を尖らせてわざとらしく不機嫌そうな顔を作った。


「で、でも……なんで」

「そんなん友達なるのに理由なんかないし」

「でも、でも……僕の噂知ってるでしょ。気持ち悪い、でしょ」


自分でそう言いながら、確実に胸に刺さったのを感じた。


「ほんまなん? あの噂」

「ち、違う……ッ!」

「じゃあそれでええやん。ほら行くで」


手首を掴んだ彼は、ずんずんと歩き出した。転びそうになって慌てて足を動かす。

自分を引っ張るその小さな手に、戸惑いと少しの恐れとでもそれ以上に泣きたくなるくらい嬉しかったのを今でもはっきり覚えている。



その日の夜、初めて日記に友達の名前を書いた。


────前から二列目に座る三好正信くん。落とした筆箱を拾ってくれた。昼休みに学校を案内してくれた。帰り道、途中まで一緒に帰った。こんな僕に友達になろうと言ってくれた。すごく、すごく嬉しかった。