四年生から五年生の二年間をまた別の学校で過ごし、六年生の春に更にまた別の学校へ転校した。今度は京都の学校だった。
「カーチャンから聞いたんやけどさ……」
「隣の姉ちゃんが……」
「前の学校で問題起こしたって……」
初めまして松山来光ですよろしくお願いします、と言い慣れた挨拶をしながら聞こえてきたのは、耳馴染みのない京都弁のそんなヒソヒソ話だった。
翌日からはいつもの"興味本位で話しかけてくる"一週間が過ぎて、案の定、月曜日には誰も話しかけて来なくなった。
ここでも一緒か、と少し笑う。もうそんな生活にはすっかり慣れた。
「ほな皆、一時間目の理科は理科室で実験やからチャイムなるまでに移動しといてや」
朝のホームルームで最後に担任がそう言うなり、クラスメイト達は教材を抱えて立ち上がる。
理科室の場所はまだ知らない。
遅れを取らないように慌てて立ち上がると、その弾みで机に体が当たって筆箱の中身が床に散らばった。
クスクスと笑って横を通り過ぎていくクラスメイト達に、ぎゅっと拳を握りしめて床にしゃがみこみ転がった消しゴムに手を伸ばす。
誰も手を貸してくれないことにも、誰も待っていてくれないことにももう慣れた。この学校だって前いた所ときっと同じだ。
何も期待してないし、新たに傷つく必要も無い。
場所が変わっただけだ。ただ、それだけ。