噂とはどこまでもついてまわるもので、三年生を過ごした小学校で広まったその噂はどこまでも僕を追いかけてきた。
初日は興味本位で話しかけてくるクラスメイトも一週間経てば誰も話しかけなくなって、二週間経てば存在しない人間のように無視された。三週間経った頃には自分を嘲笑う声が教室中から聞こえてきて、一ヶ月経てばものを隠され足を引っ掛けられノートを破られる。
そうしていじめられっ子松山来光が完成する。
僕が四年生になったタイミングで母は私立高校の非常勤講師の職に就いた。本当はまた担当クラスを持ちたいのに、と父の前で大きな声でぼやいていた。父は相変わらず銀行に務めている。この頃から二人の仲は少しずつ悪くなって行った。
小学校へあがる前はお受験対策にと休日は家族揃って美術館や展示会に行っていたけど、最近はめっきりない。どの道習い事があるので出かけることは出来ないのだけれど、父は休みの度自室に籠って本を読んでいるし、二人は顔を合わせてもろくに話をしなかった。
父も母も、ボロボロのランドセルやすぐに無くなる上履きには気付いていたけれど、ただ深くため息をついて数日以内に新しい学用品をテーブルの上に用意するだけだった。
日記に、"今日お母さんが八足目の上履きを用意してくれた"と書いた。その瞬間何故か胸がスっと冷える感じがした。
次の日から僕も、何故か二人と口を聞くのをやめた。そうするとこれまた何故か、あれだけ痛かった身体中の傷に何も感じなくなった。
期待すればその分裏切られたと思ってしまう。望みを抱けば幸せを夢見てしまう。
齢十にして、僕は他人に期待することも望みを抱くこともやめた。