────おそらくこれが、初めて言霊の力を使った日のことだ。それ以前もおそらく使っていたようだけれど、覚えている範囲で初めて力を使ったのは間違いなくこの時だった。
今ならわかるけれど、あの妖は付喪神だった。悲惨な死を遂げた持ち主の想念があの櫛に宿ったのだろう。
その後のことはあんり覚えていない。覚えてないというか記憶が無いからだ。あの後目が覚ますと僕は病院のベッドの上にいた。
友人二人と担任の先生も揃って気を失って近くの病院へ運び込まれたらしい。
ただ検査入院が明けて学校へ登校すると、仲の良かったクラスメイトはちらりと僕を見るなりすぐに目を逸らし、ほかの友達とヒソヒソ何かを喋っていた。
その日を境に僕に話しかけるクラスメイトはいなくなった。
最初は訳が分からなくて必死に自分から皆に話しかけたりしたけれど、なんの意味もなさなかった。僕は教室の中の幽霊になった。
何故そうなってしまったのかが分かったのは、転校してきて一年が経とうとしていた三学期の終わり頃だった。
────ガラスが割れそうだった時、友達と先生に「こっちに来るな」「きえろ」って言ったんだって。自分だけ助かろうとして、サイテーだよな。
放課後に忘れ物を取りに教室へ戻ってきた時、ほかのクラスの友達と喋っていたクラスメイトの会話を偶然聞いた。
それは違う、あの場に妖怪がいて皆を襲おうとしていたんだ、ガラスの奥にいたんだ本当だよ、だから僕はその妖怪に言ったんだ、こっちに来るなきえろって、先生と友達に言ったんじゃないよ。
必死に弁解した次の日、学校に来ると机の上が落書きだらけになっていた。休み時間にトイレに行けば、教科書とノートが落書きだらけになった。
「うそつき」「サイテー」「クズ」
小三の思いつく罵詈雑言なんてそんなものだけど、当時の自分の首を絞めるには十分すぎる言葉だった。
そして四年生になる前に、また転校が決まった。