女が目を見開いた、血走った目だ。
また強くガラスを叩いた。蜘蛛の巣みたいに細かい線が走る。女の髪がぶわりと持ち上がったかと思うと、ヒビの入ったガラスの隙間からその細い髪が飛び出した。
ヒッ、と息を飲んだ。思わず後ろ尻もちをつく。
「どした来光?」
「何やってんだよー、大丈夫か?」
友人たちが笑いながら歩いてくる。
女のガラスを叩く手がどんどん激しくなる。
「はやく、にげて……ッ」
声が震えてやっぱり声が届かない。
「何言ってんだ?」
「松山くんどうしたの?」
皆が不思議そうに自分を見た。
次の瞬間、バキバキッと音を立てて展示ケース一面にひび割れが広がった。その音に気付いた皆が「え?」と戸惑うように振り返る。
「来るな、来るな……ッ!」
ガラスが弾ける硬質な音が響いた。展示場を悲鳴が劈く。
『お前ら全員殺してやる────!』
「あっちいけ、くるな、きえろぉおッ!」
きつく目を閉じ力の限りそう叫んだ。