確認しなくてもわかる、妖怪だ。それも今まで見てきたものとは比べ物にもならないほと、凶悪で危険な妖怪だ。
人の姿をしている。人間の女の姿だ。白いボロ切れみたいな着物を着て、展示ケースの向こう側で俯いて座っている。髪が異常に長い。長いだけじゃない、伸び続けている。しゅるしゅると音を立てて蛇がとぐろを巻くように長い髪が展示ケースの中で溢れている。
何よりもその女から紫暗の靄が湧き出るように溢れ出していた。
ミシ、ミシ、とガラスが音を立てている。女の髪が中から展示ケースの保護ガラスを押している。
髪の隙間から見えた赤い目と目が合った。その瞬間全身の肌が泡立ち無意識に息が止まる。
『口惜しい、口惜しい口惜しい口惜しい。なぜこんな事に』
その女の色のない唇がそう動いた。その声はまるで黒板を爪で引っ掻いた時のような耳障りで背筋が凍る音だった。
『殺してやる、殺してやる、殺してやるッ!』
女が立ち上がった。ふらりと揺れるように一歩踏み出したかと思えば、バンッ!と音を立てて保護ガラスを叩いた。
「ほら松山くん、行くよ」
「来光ー! 早く来いよ面白いのあるぞ!」
「江戸時代のクシだってさクシ! 赤いんだぜ、うげぇキッショ〜!」
女が展示ケースを覗き込む友人たちを睨んだ。
『────貴様らも私を愚弄するか』
背筋が凍った。まるで喉元にナイフを突きつけられているような緊迫感を感じる。
これは、殺気だ。