「ビックリするじゃない松山くん」
先生は僕の手を離すと息を吐いた。
「暗いんだから気を付けて。一緒に回ってた子達は?」
「あ……あの……僕」
「置いていかれちゃった? 一緒に探そうか?」
「あの、僕、戻るから」
「あら駄目よ。あそこに"この通路は一方通行です"って書いてあるでしょ? 戻っちゃ駄目って事よ。きっと皆先で待ってるから、先生と一緒に行こう」
ほらと肩を掴まれて背を押された。大人の力に抗えるはずもなくどんどん通路の終わりに近付いていく。
身体中が先へ進むなと言っている気がする。空気が重い、背中に岩を乗せられたような気分だ。
この先は危険だ。進んじゃダメだ。今すぐ逃げなきゃ。
「先生……ッ! やめて!」
咄嗟にきつく目を閉じた。
「大丈夫大丈夫。ほら、みんな待っててくれたじゃない」
担任のお気楽な声がして薄ら目を開けた。
「あ、やっと帰ってきた来光!」
「遅いから先行った! なにお前うんこー?」
「ほら松山くん、皆呼んでるわよ」
とん、と背中を押されてでも足は動かなかった。というか動けなかった。代わりに半開きの口から「あ……」と息が漏れる。