社宅の玄関で雪駄を脱ぎながら、慶賀くんが口を開く。
「なぁ嘉正、来光どんな感じなの? 今朝とか何か喋った?」
スリッパに履き替えながら皆は嘉正くんを振り返る。嘉正くんは眉を下げて小さく首を振った。
「一応先に声掛けたんだ。"奉仕の後節分祭の出店見に行こう"って。答えてくれなかった」
神妙な顔になった慶賀くんだけれど、すぐにブンブンと首を振って顔を上げた。そんな様子を見て、みんなも「そうだな」と目を細める。
私もひとつ大きく頷く。
そうと決まれば急ぐぞ!、そう笑顔で階段をかけ登った慶賀くん。
追いつこうと大きく一歩踏み出したその瞬間、ビギッと腰に電気が走ったような痛みが来てその場に硬直する。
「巫寿ー? 何してんだよ早くー!」
「さ、先行ってて……」
手摺に項垂れながらそう言う。
もう二度と福神役なんてやりたくない。