「ふくのかみさまたすけてぇぇ」
「たすけてこわいよぉぉぉ」
他の子を押しのけてでも抱きつこうとする必死の形相の子供たち。
本来ここで私が「鬼よ去れ」と手を振りかざすことで鬼の皆さんは鳥居から逃げ出し、社をぐるっと回って裏から社務所へ戻っていくという手筈だった。
子供たちにもみくちゃにされながらも何とか「鬼よ去れ……!」と叫んでみるものの、子供たちの悲鳴によってかき消される。
でも福神が出てきたら鬼は立ち去る、という段取りだったはず。なのに笑いながら次々と泣き叫ぶ子供たちを引き剥がしては米俵のように肩に担いで一層泣かせた。
剥がされたら空いた隙間を奪うように子供たちがどんどんタックルしてくる。その度にお腹と腰に衝撃が走って呻き声が漏れた。
遅れて出てくると言っていたはずの志らくさんが社務所から少しだけ顔を出してこちらを見ている。私と目が合うなり「ごめん、任せたわ」と口を動かして手を合わせた。
泣き叫びながらタックルしてくる子供たち、楽しくなってしまった鬼の皆さん、誰にも声が届かない。
正しく地獄絵図だった。
もう私一人じゃ収拾がつかない。
泣きたい気持ちを堪えながら助けを求めるように周りを見回したその時。
「終わりだつってんだろ」
落ち着いたそんな声が聞こえて、子供達を担いでいた鬼の一人が視界から消えたと思えば「グハッ」と声を上げて地面に伸びていた。
「オッサンら毎年やり過ぎなんだよ。自重を覚えろ自重を」
そんな声とともに次々と鬼役の人達がバタバタと倒れていく。
その先にいた人物に目を見開いた。
「鬼市くん……!」
「ごめん巫寿。すぐ出て行こうとしたんだけど、頭領に羽交い締めにされてた」