目を細め口元に手を当ててくくくと笑った鬼市くんは一歩こちらに歩み寄る。両手を白衣の袖に入れて腕を組んだ。
授与所に立つ私の方が目線は高いので、鬼市くんが見上げる。
目を細めた。
「意味も何も、そのまんまだけど。昔から」
それは、と言葉に詰まる。耳が熱い。
そのまんまって、それはつまり。
その時、「おーい鬼市!」と人混みを掻き分けて泰紀くんがこちらへ走ってきた。
鬼市くんはいつも通りの冷静な顔に戻って振り向き小さく手を挙げた。
「なんだここにいたのか! 頭領さんがお前のことずっと探してたぞ!」
「頭領が? 分かった」
ひとつ頷いた鬼市くんが泰紀くんの後ろを歩き出す。少し歩いて、急に振り返った。その拍子に目が合って心臓が跳ねる。
鬼市くんは僅かに口角を上げると、すぐにまた前を向いて歩き出した。
人混みにその背中が消えて、堪らず深い息を吐きながら頭を抱える。
言葉の意味ははぐらかされた。でも私の自意識過剰じゃなければ、つまり鬼市くんは私を────。
ばっと両手で顔を覆うと掌に触れる頬が熱い。
駄目だ、頭が処理しきならい。